研究紹介
高性能な線形ソルバ
線形ソルバとは連立一次方程式の求解法を意味します。当研究室では、応用分野で頻出する疎行列を係数とする連立一次方程式のソルバについて研究を行っています。このような疎な係数行列を対象とする場合、反復法が主に使用されます。共役勾配法やGMRES法,BiCGSTAB法などが応用分野でよく用いられる反復法です。当研究室では、電磁場解析や構造解析の標準解法であるICCG法(不完全コレスキー分解前処理付き共役勾配法)や大規模問題に優れた特性を持つマルチグリッド法の高速化に関する研究を行っています。例えば、混合精度演算の導入、新しい並列・ベクトル処理手法の提案、応用の特性を生かした反復法の収束性改善などの研究を行っています。
Parallel in Time シミュレーション
従来、物理現象のシミュレーションを並列化する場合、解析対象を分割する領域分割型の並列処理がよく行われてきました。しかしながら、現在では計算環境における並列度(コア数やノード数)が著しく増大しており、領域分割型の並列処理のみでは十分な並列度が得られなくなってきています。そこで、多くのシミュレーションにおいて時間的に変化する現象が取り扱われることに着目し、時間方向への並列化に関して研究を行っています。通常、時間方向へは逐次的に計算を進める必要があるため、時間方向への並列化を実現するには工夫が必要です。当研究室では周期的に変化する現象の解析における時間方向並列化手法などを開発しています。
スパコンでの高効率実装
近年のスーパーコンピュータではCPUだけでなくGPUに代表されるアクセラレータが搭載されています。また、CPUやGPU内に特定計算に向けた演算機構が組み込まれていることも多くあります。それらを活用してHPCアプリケーションを高速化するために、様々な実装方法の性能評価や効率的な実装手法を開発しています。
高効率電磁流体シミュレーション
電磁流体(MHD)シミュレーションでは一般の流体力学の計算に加えて磁場を解く必要があり、更に、磁気圏は巨大な構造とマルチスケール現象を持つため、膨大な計算資源が必要となります。そのため、スパコンを用いた大規模計算の研究を行っています。現在までに並列ベクトル機、超並列スカラ機において、ベクトル化、キャッシュヒットなどCPUアーキテクチャを考慮した計算実行効率の向上、ノード間通信を含むハードウェア構成を考慮した並列化の高効率化を行い、その計算機の性能を最大限に出すことができる技術開発に力を入れてきました。最近では、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)などの共同研究により、北大、東北大、東大、名大、京大、阪大、九大の様々なアーキテクチャから成るスパコンを利用しており、それぞれのスパコンにおいて良い実効性能を達成しています。
低消費電力アプリケーション
エクサスケールの計算機を実現する上で消費電力の削減が問題となっているため、使用可能電力に制約が存在する中で、アプリケーションの性能を最大化させるコード最適化技術や電力制御機構を適応的に制御するシステムソフトウェア開発の共同研究を行っています。最新の研究では、CPUやDRAMに消費電力の制限をかけた時のアプリケーションの振る舞いを詳細に調べ、CPUやDRAMに配分する電力量を変えることで、消費電力は同じでも、計算性能が変化することを示しました。
連成計算フレームワークCoToCoAの開発
スパコンの性能向上に伴って複数コードを結合して実行が可能になってきています。一方で、他人が開発した(特に並列)プログラムと結合させることは、プログラムの可読性やデータ構造などから困難でした。そこで、連成計算(コード間でデータ転送)を容易にするCoToCoA(Code-To-Code Adapter)を九州大学、東北大学、神戸大学とともに開発しています。CoToCoAフレームワークはGitHubで公開されています。
映像IoTと非接触センサを用いた様々な見守りシステムの開発
カメラをセンサとして利用するIoT機器と非接触の環境センサを用いて測定を行い、測定結果を解析することで、様々な行動の認識や、温度などの予測を実現するシステムを開発しています。測定データはスパコンに集められ、そこで高速に解析されます。現在は、介護施設や、病院で非接触という利点を利用した安全な見守りシステムに応用しています。
野生ウマの行動シミュレーションモデルの開発
日本も含め世界のいくつかの場所では野生のウマが群れを作り生活しています。その群れのを観察から、個々のウマは近づかず離れずといった距離をとっていることが多く、特徴的なウマの距離間分布が得られています。そのような野生ウマの分布を再現する数値シミュレーションモデルを開発しています。ウマ間に働く力を仮定し、その力がウマの行動を表すようにモデルを作りますが、大量のパラメータサーベイになるため、並列化を行い、スパコンで実行することで新しいモデルを見つけ出します。
進行中のプロジェクト
- 科研費 基盤A 「計算科学・計算工学の未来を拓く次世代高性能線形ソルバ」,代表者:岩下武史
- 科研費 挑戦的研究(萌芽) 「整数演算のみを用いた次世代計算機向けシミュレーション技術の確立」,代表者:岩下武史
- 科研費 基盤S 「(計算+データ+学習)融合によるエクサスケール時代の革新的シミュレーション手法」,分担者:岩下武史
- 科研費 基盤B 「格子H行列に基づく数値線形代数の構築と最新アーキテクチャへの高性能実装法」,分担者:岩下武史
- 科研費 基盤C 「Overdamped Langevin方程式向けの時間積分並列化手法」,分担者:岩下武史
- 科研費 基盤C 「NVDIMM上の時系列バッファ実装による効率的な非同期連成計算の実現」,分担者:深沢圭一郎
- 科研費 基盤C 「対象・状況に応じたプライバシー情報調整可能な見守りシステム開発と実証研究」,分担者:深沢圭一郎
- 文部科学省 次世代計算基盤に係る調査研究事業 理化学研究所チーム,アプリケーションGリーダ:岩下武史,アプリケーションGサブリーダ:深沢圭一郎