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木星磁気圏、土星磁気圏の研究しています

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大規模流体並列シミュレーション

木星、土星の磁気圏の大規模並列数値シミュレーション、実応用先の宇宙天気を紹介しています。質問、意見、誤りの指摘等ありましたら、ご連絡ください。連絡先はこちら。（2011/05/12更新）

木星、土星の特徴

　木星は太陽系最大の質量、大きさを持つ惑星で、巨大な磁場を持ち高速で自転しています。同様に土星も巨大な惑星で、高速に自転しています。その一方で土星の表面における磁場の強さは地球とそれほど変わりません。木星、土星ともにガス惑星であり、密度は低く、土星は水に浮くと言われています。また木星、土星の磁極は地球とは逆で、方位磁石を両惑星で使うと北が南を示します。
　太陽からの距離は木星が5.2A.U.（1A.U.は太陽と地球間の距離）離れており、土星は9.6A.U.離れています。このため太陽風の密度は地球に比べて低くなり、式的（詳しくは教科書を参照してください）から求められる太陽風が当たる角度もほぼ横向き（太陽と惑星を結ぶ直線に対して90度）になります。地球は45度程度です。
　さらに、木星と土星では衛星がプラズマを供給しています。例えば木星ではイオであり、土星ではエンケラドス、タイタンです。地球の衛星である月はそのような働きはありません。
　このような違いから木星・土星は地球とは異なった磁気圏構造、ダイナミクスがあると考えられています。

Table 1.　地球、木星と土星の特徴

	地球	木星	土星
赤道半径 [km]	6,378	71,492	60,268
質量[地球=1]	1	317.8	95.16
双極子赤道磁場 [nT]	31,000	420,000	21,000
自転周期 [days]	0.997	0.414	0.444
平均密度 [kg/m3]	5.52	1.33	0.69

磁気圏

　その名の通り、惑星の磁場の影響が及ぶ領域を磁気圏と呼びます。形は惑星、太陽風環境によっていろいろ変わりますが、基本的にはFigure 1、2のような形をしています（木星の場合）。小学校か中学校の時に棒磁石の周りに砂鉄をこぼして、磁力線（磁力線は磁場の理解のために考え出されたもです）の形を見たように地球や木星、土星などの周りにも磁力線が描けます。そこに太陽風が吹いてきますが、太陽風はプラズマの風であり、惑星間空間（太陽と惑星、惑星と惑星の間の空間）では磁力線方向の電気伝導度（電流の流れやすさ）が無限大と考えることができるので、太陽風は磁力線を横切ることができず、磁力線は太陽風に押されてその形を変えて、Figure 1、2のような太陽方向と反対側に伸びた形になります。磁気圏内の詳しい構造は教科書を参照してください。
　この磁場と太陽風の関係により、オーロラが現れたり、電波通信に影響を与えたりしています。
　また、太陽風は超音速なので惑星の磁場に衝突すると、その前面に衝撃波面を作ります。これをバウショック（bow shock）と呼んでいます。

Figure 1.　木星磁気圏（子午面図） [Bagenal et al., 2004]

Figure 2.　木星磁気圏 [Bagenal et al., 2004]

Figure 3.　地球磁気圏シミュレーション結果

MHDシミュレーション

　電磁流体力学（Magnetohydrodynamics:MHD）方程式を用いたシミュレーションのことです。これはプラズマの粒子的効果が重要でない場合、つまり長波長（大規模な空間変動）でイオンジャイロ周波数（イオンが磁力線の周りをらせん運動するときの周波数）の周期よりもゆっくりとした時間変化の現象に対して有効なモデルです。磁気圏のようなグローバルなプラズマ環境をシミュレーションする時に使用します。モデルとしてはブラソフ方程式のモーメントをとることで求まる、連続の式、運動方程式、エネルギー方程式とMaxwell（マクスウェル）方程式とにより構成されます。
　私たちのシミュレーションでは基本的に以下の式を使用しています。上から連続の式、運動方程式、エネルギー保存則からもとまる圧力変化の式、インダクション方程式（誘導方程式）と呼ばれる磁場変化の式です。最後は電流の式です。

　一方で粒子的効果、運動論的効果が重要な場合は粒子シミュレーション、ブラソフシミュレーションを行います。宇宙空間プラズマではミクロな（小さな）現象がマクロな（大きな）現象を引き起こしていることがよくあり、最近ではこれらMHD,粒子を結合したモデルの重要性が高まっています。

木星磁気圏のMHDシミュレーション

　木星は固有磁場が非常に強力なため、その勢力圏である磁気圏も大きくなります。土星が木星磁気圏遠尾部に入っていることを示す観測結果もあります。その巨大さのため、一般にスーパーコンピュータを用いてシミュレーションを行う磁気圏ですが、木星では適切な解像度で計算するためには、現在の1000倍以上の計算規模が必要です。このような巨大な磁気圏内で、木星が高速で自転するために木星周辺ではプラズマが自転から少し遅れて共回転しており、木星磁気圏の構造はこの共回転が支配的であると言われています。

Figure 4.　プラズマ放出の向き（赤道図） [Woch et al., 2002]
　木星において特徴的な現象として、磁気圏尾部から周期的にプラズマ放出現象が起きていることがあります。これは木星周回衛星であったGalileo探査機により明らかになりました。Figure 4には木星赤道面において、尾部付近で周期的プラズマ放出現象が起きた場所を示してあります。この現象は木星の共回転だけに起因するものと言われてきましたが、深沢の計算機シミュレーションにより、太陽風の影響によりコントロールされているのでは無いかと言うことが示唆されました。Figure 5に横から見た（子午面）磁気圏（磁力線）を載せています。上から下に時間が進んでいますが、磁力線に囲まれた構造が木星から放出されています。

Figure 5.　磁力線構造の時間変化（子午面図） [Fukazawa et al., 2005]

Figure 6.　Periodic plasmoid ejection in the equaotrial plane [Fukazawa et al., 2005]

　一般的に惑星探査機はその場の観測しかできず、磁気圏が変動していることはわかりますが、その原因、きっかけが何かはわかりません。そのため、入力である太陽風と磁気圏を同時に観測しなければ、観測だけではこのような周期的現象の解明はできません。一方で計算機シミュレーションでは太陽風の入力を与えると、物理法則に則り計算を行い（計算誤差はありますが）、磁気圏の変動を表現できます。このような中で、計算機シミュレーション屋としては、シミュレーションの信頼度を上げて、シミュレーションの答え合わせに観測を使うのでは無く、観測の答え合わせにシミュレーションが使われることを目指しています。

土星磁気圏のMHDシミュレーション

約3億メッシュを利用した土星磁気圏シミュレーションのムービーがこちらにあります。
　土星磁気圏はプラズマ渦構造が多いと我々のシミュレーションから示唆されており（Fukazawa et al., 2007, Figure 7）、実際にCassini探査機により渦が確認されている。このプラズマ渦構造が土星のオーロラと関係しているのではないかと考え、高精度のシミュレーションを行うことで、渦とオーロラ発光に関連があることを示した（Figure 8）。

Figure 7.　The temperature and flow vectors in the equatorial plane for the simulation with no IMF (a), southward (b) and northward IMF (c) [Fukazawa et al., 2005]

Figure 8.　The magnetic field connection from the polar region to the magnetosphere [Fukazawa et al., 2012]

宇宙天気

　こちらを参照（PDFが開きます）。東北大学の小原さん（元JAXA）の宇宙天気に関する紹介があります。

実流体アプリの高効率計算、超並列計算

　磁気圏は巨大な構造を持っている一方で、その中では10桁以上スケールが異なる起きる物理現象が起きています。これは相互に影響し合っているため、独立では解けず、全体を計算して初めて意味のあるシミュレーションが可能となります。また電磁流体は一般の中性流体に磁場を加えて解くために、非常に計算量が多いシミュレーションになります。そのため歴史的にスーパーコンピュータを利用し、計算を行ってきています。計算量が多いこともあり、スーパーコンピュータという高価な計算機を利用するならば、その性能を最大限に出すべきと心に刻んでいますので、大規模計算における高効率計算、超並列について実用面から調べています。
　例えばFigure 6にあるような領域分割を用いた並列化では、どの領域分割が最適なのかなどを様々な計算機（現行ではHA8000やHX600なとのT2Kマシン、プレペタコンのFX1、九大のSR16000/L2やベクトル機であるSX-9）上で調べています。

Figure 6.　領域分割手法 [Fukazawa et al., 2010]
例えばSR16000/L2ではFigure 7のような結果となり、3次元領域分割でもキャッシュヒットを考えた配列構成が一番性能が良いとわかり、実際にそのコードの組み方でシミュレーションを行っています。Table. 2のように様々ないわゆるスパコンで性能測定を行い、比較を行っています。ベンチマークデータは蓄積していますので、ご連絡いただくか、論文などになった後に公開していきます。

Figure 7.　SR16000/L2の実効性能 [Fukazawa et al., 2010]

Table 2.　様々な計算機システムでのMHDの計算性能
参考文献
Bagenal, F., et al., Jupiter, Canmbridge University Press, 2004
Kivelson, M. G. and C. T. Russell, Introduction to space physics, Canmbridge University Press, 1995
A. Brekke著　奥澤隆志、田口聡訳、超高層大気物理学、愛智出版、2003
上記以外のおすすめ教科書
岩波講座　地球惑星科学7　数値地球科学（絶版らしい）
岩波講座　地球惑星科学12　比較惑星学（絶版らしい）
ブルーバックス　高校数学でわかるマクスウェル方程式

この本は日本語で書かれているのでわかりやすいと思います。